5. ビジネスのための実行可能なガイダンス
ピーター・ドラッカー
5.1 Future-Fitなビジネスに向けて
企業は何をすべきでしょうか?
映画スタジオ、ファッションブランド、アイスクリーム販売業者など、多くの業種は、社会の最重要課題の解決に取り組んでいるわけではありません。しかし、それらのビジネスが「悪い」わけでも、Future-Fitな社会と相容れないということではありません。素晴らしい映画、美しい服、そして時にはご褒美がなければ、人生は味気ないと感じる人も多いでしょう。
一方で、食品や医薬品の製造会社のように、社会のニーズに明らかに対応したビジネス・モデルを持つ企業もあります。しかし、それだけでは企業が本質的に「良い」企業であるとは限りません。たとえ製品が有益であっても、それらの企業がシステム的な問題を悪化させる活動の多くに依存している可能性もあるからです。
システム的な観点から重要なのは、全ての企業が社会の移行を妨げないことです。
Future-Fitなビジネスとは、人類や他の生命が地球上で永続的に繁栄する可能性を損なうことなく、理想的にはその可能性を高めるものです。
実行可能なガイダンスの策定
前章で述べたように、これはトリプル・ボトム・ラインの観点から、価値創造を導くための追加的な非財務的損益分岐ゴールとなる環境的・社会的閾値を設定するということです。本章では、ビジネスの文脈においてそれが具体的にどのようなものなのかを明らかにします。
どのようなツールでも有用かつ使用可能であることが求められます。Future-Fitビジネス・ベンチマークも例外ではありません。社会の要請を企業向けの実行可能なガイダンスに翻訳するためには、次の2つの問いに答える必要がありました。
- ビジネスに求められること: ビジネス・リーダーや投資家が課題に立ち向かうために必要なものは何でしょうか?
- ビジネスの役割と範囲: Future-Fitな社会の実現に向けて、各企業は自社のバリュー・ウェブの内外で何ができて、そして何をしなければならないのでしょうか?
これらの領域について、以下で詳しく説明していきます。
5.2 ビジネスに求められること
理論的には、どの企業も 上で 紹介したFuture-Fitな社会に向けてビジネスに求められる要請をもとに、自社のビジネスをどのように変えるべきかを導き出すことができます。しかし実際には、その方法を模索する努力を惜しまないのは、最も先進的な企業に限られるでしょう。さらに、たとえ同じ業界であっても、2つの企業がそれぞれ独自の方法で野心的な目標を設定し、まったく異なる方法で進捗状況を評価する可能性もあります。
これは理想的な状況とはいえません。私たちはFuture-Fitな社会という共通の目的地を目指している以上、企業の取組みや進捗状況も統一された方法で追跡する望ましいのです。実際、そうすべき理由は4つあります。
同業他社のプレッシャーが進捗を促します。
全ての企業は、自社の目標に向かい集中しつつも常に競合他社の動向を意識するため、それに刺激を受けて自社の取組みを強化する可能性があります。進捗の評価方法が共通であれば、企業は自社の進捗状況を他社と比較して追跡しやすくなり、正しい最終目標に向かって進むことができます。
投資家は真のリーダーを見極めたいと考えています。
企業の環境および社会目標に関する比較可能性が欠如しているため、最も熱心な投資家でさえ、どの企業がシステム的なリスクに備え、新たな成長機会を切り開くために最も取り組んでいるかを判断することが困難です。短期的な行動を、意味のある長期の野心的な目標との関連で捉える、簡潔で比較可能かつ集約可能な指標セットがあれば、この問題は解決します。
協働には共通のビジョンと目標が必要です。
全ての企業が、ましてや社会全体がFuture-Fitになるためには、効果的なパートナーシップが不可欠です。一貫した目標セットがあれば、バリュー・ウェブ全体の組織がどのように協働すべきかを理解し、互いのFuture-Fitnessを高めることができます。
予期せぬトレードオフを回避するには、総合的なアプローチが必要です
あらゆる社会システムの役割で説明されているように、企業が社会に対してプラスのインパクトを与える方法は多岐にわたり、そうした取組みは奨励されるべきです。しかし、「正しいことを行う」試みを理由に、他で必要な進歩が欠如していることを正当化することはできません。なぜなら、プラスのインパクトとマイナスのインパクトはほとんどの場合相殺されないためです。5 Future-Fitな社会へのあらゆるポジティブな貢献およびネガティブな貢献を包括する統一的な枠組みがあれば、特定分野に注力する企業でも全体像を見失わずに済みます。
企業がどれほどプラスのインパクトを生み出していても、Future-Fitにならなければ、システム価値を生み出しているとと自信を持って主張することはできません。
ビジネス・リーダーと投資家に必要なものを提供します。
これらの考慮事項は、ベンチマークの開発において極めて重要な段階に影響を与えました。すなわち、これまでに示した概念を、「損益分岐ゴール(BreakEven Goals)」、「ポジティブな取組み(Positive Pursuits)」、および「補完的なパフォーマンス」の指標セットに落とし込む段階です (図5.1をご参照) ください)。
次のセクションでは、開発に用いられた方法論について説明します。
図5.1: Future-Fitビジネス・ベンチマークの構造
5.3 ビジネスの役割と範囲
全てのビジネスがすべきこと、どのようなビジネスでもできること
上記で 紹介したFSSDのシステム条件は、全ての企業がすべきこと、そして、それを超えてどのような企業でもできることを特定するための、科学的根拠に基づいた強固な基盤を提供しています。
あるビジネスの存在が、自社内、そして自社の壁を越えて社外のシステム条件に一切違反しない場合にのみ、そのビジネスは財務的な損益分岐点を超えて、Future-Fitになれるのです。
さらに、企業自らがFuture-Fitになる前でも、過去のシステム条件違反を克服する、あるいは他者が将来違反するのを防ぐ支援を行うことで、社会自体のFuture-Fitへの進展を促進するポジティブな結果を追求することもできます。
ビジネスの影響範囲
ビジネスがシステム条件違反に関与しないとはどういう意味かを理解するためには、企業が他者に与える可能性のある影響範囲を明確にする必要があります。
全ての企業は、複雑で動的な「バリュー・ウェブ」の中の主体の一つであり、さまざまな他の社会システムに影響を与え、また影響を受けています。このバリュー・ウェブは、次の4つの領域に分類することができます。
- サプライヤー: 企業が依存するインプットの生産に携わる全ての人々、そしてそれらの活動の影響を受ける全ての人々(企業のサプライ チェーン全体の労働者やコミュニティを含む)が含まれます。
- 事業: 企業自体の活動のことです。これには、その活動を支えるコミュニティや労働者の活動も含まれます。
- 製品: 企業が提供する収益を生み出す財やサービスのことです。これらは、個人、企業、その他の主体がそれによって恩恵または影響を受けることになります。
- 社会: 企業が影響を与えたり、受けたりする可能性のある他の組織、物理的インフラ、共有の社会的制度のことです。
このバリュー・ウェブの区分は、次の2つを判断するための基礎となります。まず1つ目は、システム条件違反に対して企業が負うべき責任の範囲です。2つ目は、企業が過去のシステム条件違反の影響を回復させる、または他者が将来違反することを防ぐ支援を行うことで、企業がプラスのインパクトを与えようとする範囲や、それにより企業が認識されるべき範囲です。
Future-Fitに取り組む上でのこれら2つの補完的な側面(マイナスのインパクトを排除する責任とプラスのインパクトの認識)は、図5.2に要約されており、以下で詳しく説明します。
図5.2:社会の要件をビジネスの役割と範囲にマッピングし、ビジネスがシステム条件に関してできることと、すべきことを特定する
バリュー・ウェブ全体へのマイナスのインパクトに対するビジネスの責任
企業が日々の業務や製品設計など、直接管理できる範囲におけるインパクトに対して全面的に責任を負うべきであるという点については、ほとんど異論はないでしょう。しかし、システムの観点から見ると、ビジネスは直接管理できない範囲における特定のインパクトについても、相互責任を負うべきです。
つまり、企業の存在によって生じるインパクトについては、自社の範囲外にあるインパクトであっても 相互責任を負うべきです。
全てのビジネスが到達すべき損益分岐点を特定するには、この相互責任の定義をバリュー・ウェブの4つの領域全てに適用する必要があります。
サプライヤーに関連する損益分岐点
ビジネスがFuture-Fitであるためには、その成功が、システム条件の違反を引き起こすようなインプットに依存していてはなりません。したがって、ここでの相互責任とは、違反を会社のサプライチェーンに押し戻さないことを意味します。具体的な要件は次のようにさまざまです。
外部委託されたコア機能: 企業が本来自社で行うべき活動(例:顧客サポート、製造、物流)を外部に委託する場合、その活動に伴う全てのマイナスのインパクトも委託されることになります。したがって、企業は外部委託先によって生じる全てのシステム条件違反を回避または対処する相互の責任を負います。
製品インプット: 企業が、物理的な財を製造する、またはそれら財の消費を伴うサービスを提供するためには、原材料や製造部品などに依存せざるを得ません。したがって、企業は製品インプットの提供によって生じる、原材料から製品出荷までの全てのインパクトを回避または対処する責任を負います。
補助的な財および支出: これは以下の3種類の購入を含みます。まず、企業が一時的に使用するサービス(例:コンサルティング、タクシー、出張時のフライトやホテル)です。次に、日常業務で消費される一般財(例:事務用品、清掃用品)です。最後に、日常業務をサポートする購入固定資産またはリースされた固定資産(例:建物、IT機器、機械、家具)です。これらのインプットは通常、複数のサプライヤーから同等の条件で調達できますが、いずれのサプライヤーに対しても企業の影響力はごくわずかです。この場合の相互責任は、企業が利用可能な最善の選択肢を選ぶ責任です。
今日のグローバルなサプライチェーンは、非常に複雑で不透明です。したがって、ビジネスのインプットと、その結果生じるインパクトを把握することは大きな課題です。しかし、無知であることは免責の理由にはならず、企業は上記の要件が満たされるまで、調達活動を通じてできる限りのことを行い、サプライチェーンのホットスポットを継続的に予測、回避、そして対処する全面的な責任を負います。
事業に関連する損益分岐点
企業は、自社の活動によって生じる環境的・社会的なマイナスのインパクトを排除する全面的な責任を負います。これは、従業員の行動にも及びます。個々の従業員の行動を完全に管理することはできませんが、それでも企業は問題を予測して回避し、問題が発生した場合には効果的に対処するために最善を尽くさなければなりません。
製品に関連する損益分岐点
企業は、自社が提供する財やサービスが人や環境に害を及ぼさないよう最善を尽くさなければなりませんが、企業に顧客の行動を完全に管理するよう期待することはできません。したがって、企業は、自社製品の使用中および(物理的な財の場合)使用後の処理から生じる、避けられない、あるいは発生可能性の高い、予測可能なインパクトに対して相互責任を負います。
例えば、内燃エンジンを搭載した自動車を販売する企業の場合、ドライバーにはエンジンについての選択肢がないため、自動車の使用中に排出される温室効果ガスに対して企業は相互責任を負うことになります。電気自動車を販売する企業の場合、ドライバーは再生可能な電力源を自由に使用してバッテリーを充電することができます。この場合、顧客が炭素を排出する電力源を使用したために(発電中に)発生する温室効果ガス排出については、企業は相互責任を負いません。
社会に関連する損益分岐点
企業は倫理的に行動しなければならず、積極的な行動(進歩を促す法律に反対するロビー活動など)または消極的な行動(十分な税金を払わないなど)を通じて、私たちが依存する社会制度や物理インフラの健全性を損なってはなりません。
また、企業はその金融資産のインパクトについても相互責任を負います。どのような組織でも資本へのアクセスによって行動が制限されますが、企業には投資や融資の形でそのようなアクセスを提供する力があります。ビジネスは、成功がシステム条件違反に依存するような活動(例:石炭火力発電所の建設にプロジェクト・ファイナンスを提供するなど)を財務的に支援しないように、できる限りのことをしなければなりません。
バリュー・ウェブ全体におけるプラスのインパクトに関するビジネスの認識
先にも述べたとおり、過去のシステム条件違反を克服するために行動するか、または他社が将来システム条件に違反しないように支援することによって、企業はポジティブな結果を追求することができます。ここでもまた、バリュー・ウェブの4つの領域全てについて順番に見ていきましょう。
サプライヤーに関連するポジティブな取組み
前述のとおり、企業がサプライヤーに関してFuture-Fitであるとはみなされるためには、そのサプライチェーン内で発生する全てマイナスのインパクトを効果的に回避または対処している必要があります。
特に、複雑で多層化されたサプライチェーンを持つ製品のインプットについて、これを達成するにはかなりの時間と労力が必要です。
しかし、サプライチェーンの改善を待つことと、それを積極的に改善することでは大きな違いがあります。したがって、サプライヤーの損益分岐点達成を支援すべく企業が取る行動は、ポジティブな取組みと見なされます。
例えば、水ストレス地域から農業関連のインプットを調達している企業は、サプライヤーがドリップ灌漑技術を導入できるよう資金援助や専門知識を提供し、インプットの水使用量を大幅に削減することができます。
企業はまた、過去の環境へのインパクトをサプライヤーが回復するのを支援(例:以前に伐採された森林を復元)する、または十分な支援を受けていない集団に対して経済的な機会を増やす(例:遠隔地の小規模農家が商品市場にアクセスできるようにする)ことによって、ポジティブな結果を追求することもできます。
事業に関連するポジティブな取組み
企業は自社の事業活動を完全に管理しているため、自社のマイナスのインパクトを徐々に減らして損益分岐点に近づけることは、ポジティブな取組みとはみなされません。
しかし、企業が損益分岐点を超えて環境へのインパクトを回復させる(例:企業が必要とするよりも多くの再生可能エネルギーを生成し、余剰エネルギーを送電網に戻す)、または支援が不足している集団から積極的に雇用して社会的インクルージョンを高める場合、企業は自社の活動を通じてポジティブな結果を達成できる可能性があります。
製品に関連するポジティブな取組み
企業は、顧客が自らのマイナスのインパクトを削減できるようにする(例:化石燃料や淡水の需要を大幅に削減する)こと、さらには顧客自らがプラスのインパクトを与えられるようにすることで、プラスの結果を達成できる可能性があります。
ただし、製品の使用による恩恵は他の選択肢の有無により異なるので、製品のプラスのインパクトについて確信と信頼性を持って評価することは困難です。例えば、燃費の良いガソリン車のSUVを考えてみましょう。顧客が、より燃費の良い小型車の代わりにそのSUVを購入するとすれば、温室効果ガスの純排出量は悪化することになります。
このようなケースは、製品がマイナスのインパクトを完全に削減するものである場合、さらに難しくなります。つまり、新しいSUVが電気のみで動く製品であった場合です。その場合でも、エネルギー効率の良い公共交通機関を利用して顧客が移動ニーズを満たすことができたとしたらどうでしょうか?
簡単に答えは出ません。最も意義のあるビジネスであっても、プラスのインパクトが誇張されてしまうと、グリーンウォッシングの疑いをかけられてしまう可能性があるのです。
しかし、製品が実際に測定可能なプラスのインパクトをもたらす可能性を高める方法が2つあります。1つ目は、過去の環境へのインパクトをその製品の使用によって実際に回復させる財やサービス(例:汚染された川を浄化する技術)を提供することです。2つ目は、支援が不足している集団が基本的なニーズを満たせるようにすること(例:遠隔地の貧困層にクリーンエネルギーや手頃な価格の医療を提供すること)で、社会的インクルージョンとウェル・ビーイングへの障壁を克服することです。
社会に関連するポジティブな取組み
経済的文脈で述べたように、Future-Fitな社会を追求するために経済システムを再構築できる魔法のボタンは存在しません。しかし、社会規範、グローバル・ガバナンス、共有インフラ、市場メカニズムの変革に向けて私たちが協働すれば、新たな成長パラダイムが生まれる可能性があります。
あらゆる企業は、企業やブランドの影響力、コア・コンピタンスや技術的ノウハウ、金融資本の投資方法を通じて、この変革に積極的に関わることができます。
5.4 損益分岐ゴール、ポジティブな取組み、指標の導出
5.4.1 損益分岐ゴール
損益分岐ゴールは、ビジネス・リーダーが目指すべき明確な目標を示すために策定されたものです。
- 目標はそれぞれビジネス・リーダー、投資家、その他の主要な利害関係者が長い説明をしなくても理解できるよう、一文で表現されています。
- 目標はそれぞれ、バリュー・ウェブの一部(例:製品、事業)において目標とする最低限のパフォーマンス基準を表し、単一の問題(例:賃金、廃棄物)に関連づけられています。
- 全ての目標を組み合わせることで、あらゆる企業が達成しなければならない社会的・環境的損益分岐ゴールが特定されます。
これらの目標を導き出すためには、まず企業がどのようにしてシステム条件に違反する可能性があるか、つまりFuture-Fitな社会の特性の実現に向けた進展を妨げる要因を検討しました。(図4.2)。
次に、そのような違反が起こらないようにするために、どのような行動がとられあければならないかを特定しました。最後に、これらの行動は、明確で簡潔な損益分岐ゴールのセットとして落とし込みました。 図5.3 はこのプロセスを要約したものであり、マッピングの詳細は 付録 2に記載されています。目標自体は次の章で紹介します。
図5.3:Future-Fit損益分岐ゴールの由来
5.4.2 損益分岐ゴール
ビジネス・リーダーはパフォーマンスをモニタリングし、最も行動が必要な分野を優先する必要があります。また、投資家やその他の利害関係者は、企業間で意味のある比較を行い、どの企業がFuture-Fitに向けた取組みを先導しているかを理解する必要があります。そのためには、各損益分岐ゴールへの進捗状況を評価する一貫した手法が必要です。
指標の設計基準
指標の開発にあたっては、次の設計基準が採用されました。
計算可能であること
- 指標の値を計算するために必要なデータは全て、たとえ一部の企業がまだ把握していないとしても、企業が取得できる範囲内のものである必要があります。
- 各指標は、企業が自社のインパクトを全面的に把握していない場合でも(例えば、購入した材料の供給元や自社の事業地の排出量を把握していない場合でも)、計算可能である必要があります。したがって、指標は認識不足にも対応できるものでなくてはなりません。
- 各指標は、企業が認識不足を解消するように促すものであるべきで、知識が増えた場合にも罰則を課すものであってはなりません。(例えば、特定の製品がマイナスのインパクトを及ぼすことが判明した場合、企業のスコアを加点すべきではありませんが、減点もすべきではありません。)
比較可能であること
- 各指標は、企業の規模、業種、所在地に関係なく、どのような企業のパフォーマンスでも一貫して測定できるものであるべきです。
網羅的であること
- 指標は、ビジネスによって行われる、またはビジネスに代わって行われる、バリュー・ウェブ全体にわたる全ての関連する活動を網羅し、企業の全責任範囲をカバーする必要があります。
シンプルであること
- 各指標は、目標に最も関連する単位(例:製品ごと、従業員ごと)で、パフォーマンスを捉えるものであるべきです。これにより、企業は行動を起こす必要性が最も高いのはどこかを特定できます。
- 各指標は、事業体ごとの指標(metrics)として1つの値(または、1つの値では意味がない場合は、できるだけ少ない値)に集約し、企業全体の進捗を表すものであるべきです。さらに、各事業体のパフォーマンスは、ビジネスへの全体的な貢献度に応じてウエイト付けされるべきです。
- ミクロ(事業体ごと)とマクロ(企業全体)の両方のレベルで、損益分岐までの進捗状況をパーセンテージで表すことができるものであるべきです。
高い信頼性
- 各指標は最先端の科学に基づき、指標によって進捗が測定される目標の「本質」を正確に捉えるものであるべきです。
- 各指標は、利用可能な指標が、求められるパフォーマンス水準と整合している限りにおいて、独立した業界標準など、最善の第三者のリソースを利用すべきです。
指標の進化
損益分岐指標は「リリース1」で初めて公表されました。これらの指標も、損益分岐ゴールと同様に、早期から導入した企業により改良が重ねられてきました。
大きな改良点の1つは、各目標に対して進捗指標と文脈指標の両方が使われるようになったことです。これは、測定項目を増やして企業の負担を重くすることが目的ではなく、進捗状況を文脈の中で捉え、資源の最適化の度合いや損益分岐達成までの距離感を、より明確に把握できるようにするためのものです。
例えば「環境に責任を持ち、社会的に公平な方法で水を利用する」という目標を考えてみましょう。この目標には、「量」と「質」の2つの側面があります。まず、企業は水ストレス地域からの取水量を減らし、最終的には取水を止めなければなりません。次に、企業は排水が排水先の水域や土壌の質を劣化させないよう、また何らかの形で害を与えないようにしなければなりません。全体像を把握するには、この目標を4つの指標で表すことになります。消費と排水のそれぞれについて目標に対するfitness(適合度)をパーセンテージで示す進捗指標が2つと、消費と排水のそれぞれについて総量を記録する文脈指標です。
なお、設計基準である「シンプルであること」に基づき、追加の指標は、より良いビジネス上の意思決定に役立つ場合にのみ使用されるべきであることに注意が必要です。
損益分岐指標の詳細については、アクション・ガイドをご参照ください。
5.4.3 ポジティブな取組み
ポジティブな取組みは、ビジネス・リーダーが社会のFuture-Fitnessに積極的に貢献できるようにするために考案されたものです。
- 「ポジティブな取組み」はそれぞれ、ビジネス・リーダー、投資家、その他の主要な利害関係者が長い説明なしにその意味を理解できるよう、一文で表現されています。
- それぞれのポジティブな取組みは、過去の環境的・社会的なマイナスのインパクトを回復させる方法、または他者が将来的にそのようなマイナスのインパクトを受けないようにする方法を特定しています。
- それぞれのポジティブな取組みは、バリュー・ウェブ全体を通じて実現が期待される結果の1タイプに関連しており、サプライヤーのパフォーマンス向上、有益な製品の提供、市場や制度がFuture-Fitnessに向けて取り組むための能力強化まで、さまざまな行動が含まれています。
これらのポジティブな取組みを導き出すには、まず、企業がどのように行動すれば、過去のシステム条件違反を克服することができるか、あるいは、他者の将来の違反を回避できるかを検討する必要がありました。これにより、Future-Fitな社会の特性 (図4.2)の実現に向けた進捗を加速させることができます。
次のステップでは、これらの行動を、企業が実現すべき明確かつシンプルな結果のセットにしました。図5.4 はこのプロセスをまとめたものであり、マッピングの詳細は 付録2に記載されています。
図5.4:Future-Fitに向けたポジティブな取組みがどのように導き出されたか
5.4.4 ポジティブ指標
企業がポジティブな取組みを実施する方法は、潜在的に無限に存在します。例えば、世界の最貧困層における糖尿病のインパクトを軽減することで、 より多くの人々が健康で安全に過ごせるようにする取組みであれば、 健康的な食生活の選択について教育すること、手頃な価格のインスリンへのアクセスを提供すること、医療従事者が症状が悪化する前に病気を見つけて治療できるように訓練することなどが考えられます。
このようにアプローチが多様であるため、2つのプロジェクトを一貫性のある比較可能な方法で評価して報告することは困難です。しかし、将来のプロジェクトの意思決定に役立てるため、また投資家やその他の関係者に意味のある形で結果を示すためには、そうした努力が重要です。
インパクトを共通の方法で記述する必要性から、「インパクト・マネジメント・プロジェクト(IMP)」が設立されました(ボックスをご参照ください)。
Future-Fit FoundationはIMPの共著者であり、ポジティブな結果を評価するための私たちのアプローチは、彼らの研究に大きく依拠しています。私たちは、この業界横断的な取組みの進展に合わせて、ガイダンスの改善に取り組んでいます。詳細については、Positiveな取組みに関するガイドをご参照ください。
インパクト・マネジメント・プロジェクト(IMP)の紹介
2016年から2018年にかけて、IMPはさまざまな地域や分野から2,000人以上の実務家を集め、インパクトについての共通言語、管理方法、測定方法に関する合意形成を行いました。参加者には、ビジネス、非営利団体、投資者、社会科学者、助成団体、評価者、政策立案者、標準化団体、会計関係者などが含まれます。この多様なグループは、「インパクト」について共通定義に合意し、優れたインパクトの枠組みや報告書に含まれるべきデータの種類についても合意しました。 [18]
Bibliography
温室効果ガスの排出は顕著な例外です。世界のある地域で排出されたCO2の1キログラムは別の地域で大気中から除去されることで「相殺」される可能性があります 。↩︎