7. ポジティブな取組み
図 7.1: Future-Fitに向けたポジティブな取組み
7.1 エネルギー
Future-Fitな社会では、エネルギーは再生可能で、全ての人が利用できます。
PP01: 他者による非再生可能エネルギーへの依存は低くなる
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、非再生可能なエネルギーへの依存を排除する必要があります。ここでは、その先の行動について検討します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 非再生可能エネルギーの代替として、再生可能エネルギーの利用がさらに進む
- 他者が、より少ないエネルギーでニーズを満たすことができる
PP02: より多くの人々がエネルギーを利用できるようになる
多くの企業が世界のエネルギーシステムに商品やサービスを提供していますが、それにより必ずしも社会のFuture-Fitnessになるための進歩が加速しているわけではありません。重要なのは、アクセスに関する課題です。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下が実現した場合に該当します。
- これまで十分なサービスを受けられなかった人々が、清潔な調理設備と電気をいずれも確実にかつ手頃な価格で利用できるようになる6
注: Future-Fitな社会では、誰もが再生可能エネルギーを利用できます。ただし、これまでエネルギーをまったく利用できなかった人々にエネルギーが提供される場合、そのエネルギーが非再生可能な資源に由来するものであっても、人々のウェル・ビーイングに対する大きな障壁が取り除かれたといえます。これは、再生可能エネルギーへの完全なアクセスに向けた中間ステップとしては確かにパーフェクトではないものの、注目に値する重要な成果といえるでしょう。また、企業がこのようなエネルギーへのアクセスを提供することで温室効果ガス(GHG)排出量が増加する場合、あるいは顧客側の排出量が増加する場合、このような副作用は、運用に関するGHG排出量および製品に関するGHG排出量にそれぞれ重点を置いた損益分岐ゴールにおいてマイナスの寄与として捉えられます。
7.2 水
Future-Fitな社会では、水は責任を持って取水され、全ての人が利用可能です。
PP03: 他者による水資源へのストレスへの影響は低くなる
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、水ストレスへの関与を排除する必要があります。ここでは、その先の行動について検討します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 水ストレスを悪化させることなく、より多くのきれいな水が利用可能となる
- 他者が、より少ない水でニーズを満たすことができる
PP04: より多くの人々が清潔な水にアクセスできるようになる
多くの企業が世界の水システムに商品やサービスを提供していますが、それにより必ずしも社会のFuture-Fitnessになるための進歩が加速しているわけではありません。重要なのは、アクセスに関する課題です。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下が実現した場合に該当します。
- これまで十分なサービスを受けられなかった人々が、清潔で信頼できる淡水を利用できるようになる7
7.3 天然資源
Future-Fitな社会では、天然資源はきちんと管理され、コミュニティ、動物、生態系を守ります。
PP05: 他者の適切に管理されていない天然資源に対する依存度が低くなる
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、自身が保有する天然資源を責任を持って管理する必要があります。ここでは、その先の行動について検討します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 責任を持って管理する天然資源が生産され、他者が利用できる量が増える
- 破壊的な方法で生産されていた天然資源が、責任ある方法で管理されるように変更される
- 絶滅危惧種に由来する商品やサービスが減る
- 同一のニーズを満たすために必要な天然資源が減る
注: エネルギーや水とは異なり、天然資源の原材料そのものは基本的なニーズではありません。なぜなら、それらに直接アクセスする必要がある人々は比較的少数だからです。そのため、天然資源へのアクセスに特化したポジティブな取組みのカテゴリーは存在しません。ただし、全ての社会経済的な活動主体は、最終的に天然資源から得られる商品やサービスに依存していることに留意することが重要です。したがって、企業が責任を持って管理される天然資源のみを使用した新製品を提供し、これが市場において適切に管理されていない天然資源を使用した製品の代替品となる場合、その結果はこのポジティブな取組みに該当します(この場合、「他者」は、改善された製品の顧客です)。
7.4 汚染
Future-Fitな社会では、環境が汚染されることはありません。
PP06: 他者による温室効果ガスの排出量は少なくなる
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、自社の温室効果ガス排出や、自社製品の使用に伴う温室効果ガス排出を削減する必要があります。ここでは、その先の行動について検討します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- より低い温室効果ガス(GHG)排出量で同じ結果をもたらすよう、活動が変更される
- ある活動が、GHG排出を伴わない別の活動に変更される
- GHGが排出前に把握され、排出を防ぐような方法で使用または貯蔵される
PP07: 温室効果ガスが大気から排除される
温室効果ガスは、炭素の隔離と貯蔵という自然のプロセスを通じて、大気から継続的に除去されます。特に樹木、植物、藻類の光合成は、大気中の二酸化炭素を吸収し、それを他の炭素化合物に変換します。これらは最終的に樹幹、枝、根などのバイオマスや土壌に蓄積され、自然の炭素吸収源となります。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 天然の炭素吸収源を植え付け、栽培、あるいはその他の方法で創出する
- 既存の天然炭素吸収源が強化され、より多くの炭素を吸収および貯蔵できる
- 技術的な手段によって温室効果ガスが大気から除去され、将来の排出を防ぐような方法で使用または保管される
7.5 廃棄物
Future-Fitな社会では、廃棄物は存在しません。
7.6 物理的存在
Future-Fitな社会では、人類という物理的存在は生態系とコミュニティの健全性を守ります。
PP12: 他者による生態系の劣化が少なくなる
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、エコシステムへの侵害を避けなければなりません。ここでは、その先の行動について検討します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 生態系がさらなる侵害から保護される
- 生態系の劣化につながる活動が回避される
PP13: 生態系が回復する
人間の存在によって損傷を受けた生態系は、必ずしも劣化したままとは限りません。特定の活動を通じて、以前の状態、またはそれに近い正常な状態まで徐々に回復することができます。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 生態系が積極的に復元される(例:在来樹木の植え直し、自然の洪水防御の修復、在来種の再導入などによる回復の促進)
- 生態系が自然に再生するよう保護される(例:劣化した地域を人間の干渉から保護する)
7.7 人
Future-Fitな社会では、人々には充実した人生を送る力と機会があります。
PP16: より多くの人々が健康で、危険から守られている
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、従業員、顧客、地域社会の健康を守らなければなりません。ここでは、その先の行動について検討します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 早期死亡や病気が予防される
- 搾取および虐待が防止される
- メンタル・ヘルスの問題が予防される
- 奴隷制度や強制労働が防止される
- より多くの人が栄養価の高い食品を食べることができ、栄養失調が解消される
- より多くの人が清潔な水と衛生設備を利用できる
- より多くの人が適切な住宅に住むことができる
- より多くの人が医療サービスを利用できる
PP17: 人々の能力が強化される
人々は、日々の課題や機会に最善の方法で対応できるよう、必要な知識、テクノロジーおよびサービスにアクセスできなければなりません。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- より多くの人が教育や職業訓練を受けられる
- より多くの人が、より良い意思決定に必要な情報(例:生殖に関する選択)にアクセスできる
- より多くの人が情報通信技術にアクセスできる
- より多くの人が、農機具や製造設備など生産性を高める技術にアクセスできる
- より多くの人が社会保障、保険、金融にアクセスでき、期せぬショックへの耐性を高められる
- より多くの人が交通ネットワークにアクセスできるようになり、より多くの機会を得られる
PP18: より多くの人々が経済的な機会にアクセスできるようになる
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、自社の従業員に対して公正な雇用条件と生活賃金を保証しなければなりません。ここでは、その先の行動について検討します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- より多くの人が、ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)の定義を満たす生計手段を得ることができる8;
- これまで市場やバリュー・チェーンに参加できなかった人もアクセスできるようになる
- 土地などの地域資源から経済的利益を得る権利が、より多くのコミュニティに認められる
PP19: より多くの人々の個人の自由が守られる
全ての企業は、損益分岐ゴールを達成するために、自社の従業員がいかなる差別も受けないようにしなければなりません。ここでは、その先の行動について検討します。
個人の自由は尊重されなければならず、誰もが差別の恐れなく、社会的、政治的および経済的な生活に参加し、自己表現できるようにする必要があります。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 思想、良心、宗教、意見、表現、結社の自由がより多くの人に対して保障される
- より多くの人が差別から解放される
- より多くの人の身体の自由9が保障される
- より多くの人のプライバシーの権利が守られる
PP20: 社会的結束が強化される
誰もがより高いニーズを追求する機会を持つためには、人々が社会集団を形成し、参加し、信頼できるようでなければなりません。このような社会的結束は、個人、コミュニティ、組織の間で信頼と尊敬を築く上で不可欠です。
社会的結束は、地域社会内の強い絆と、地域社会間の強い架け橋によって成り立ちます。したがって、このポジティブな取組みの重点は、個人のウェル・ビーイングの保護ではなく、共通の基盤の育成および個人間の機会格差の解消にあります。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- 言語の壁や偏見などの社会的分断が克服される
- 購買能力や教育の不足などの経済格差が克服される
- 適切な共有スペースへのアクセスの欠如など物理的な障壁が克服される
7.8 ファクター
Future-Fitな社会では、社会規範、グローバル・ガバナンス、経済成長はFuture-Fitnessの追求を促進します。
PP21: Future-fitnessを追求する中で、インフラが強化される
人間の活動のほとんどはさまざまな種類のインフラに依存しており、それらが一体となって、効率的で包括的かつレジリエントな社会を実現するための重要な基盤として機能します。
現在、何百万人もの人々がエネルギー、清潔な水、衛生、通信、、移動手段などの基本的なサービスにアクセスできない主な理由のひとつが、インフラの不足や不備です。
既存のインフラがとても非効率で、Future-Fitnessに向けた進展を妨げることさえあります。今後数年間に社会が行うインフラ投資の選択は、良くも悪くも私たちの移行の道筋を固定化することになでしょう。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下のいずれかが実現した場合に該当します。
- インフラのギャップが解消され、基本サービスを利用できていなかった人が利用できるようになる
- 既存のインフラがアップグレードされ効率が向上する
- 既存のインフラが改良され、運用上のマイナスのインパクトが軽減する
- インフラが新設または改良され、レジリエンスが高まる
PP22: Future-Fitnessを追求する中で、ガバナンスが強化される
ガバナンスの概念は、国際、国内、地方、企業などさまざまなレベルで考えることができます。また、規制、政策、プロセスなどを通じた意思決定の方法とその実施に関係しています。
このポジティブな取組みは、企業が自社以外の政府や公的機関などのガバナンス構造にどのように影響を与え、Future-Fitnessの体系的な追求をサポートするかに焦点を当てています。10
ガバナンスへの信頼は、汚職の少なさ、民主主義の安定性、相対的な経済的平等と関連していますが、信頼を得るための近道はありません。
組織が信頼を得るには、意思決定の透明性を保ち、約束したことを一貫して実行し、サービス提供者の最善の利益のために行動するよう継続的に努める必要があり、信頼は時間をかけて初めて構築されるものです。信頼と優れたガバナンスの関係は循環的であり、それぞれが互いを促進します。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下が実現した場合に該当します。
- 国際、国内、または地方レベルでのガバナンスが、より説明責任を果たし、参加型かつ応答性を備え、責任感や透明性をもつものとなる
PP23: Future-Fitnessの追求する中で、市場メカニズムが強化される
どの企業も自社のFuture-Fitnessを高めるための措置を講じることができますが、市場レベルに存在する障壁は、個々の企業だけでは克服が極めて困難です。
このような障壁は、最も意欲的な企業の努力さえ妨げる可能性がありますが、ひとつの障壁を取り除くための行動は潜在的に、企業自身だけでなく、同業他社や他の市場関係者が望んでいた進展をもたらす場合があります。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下が実現した場合に該当します。
- Future-Fitな成果の追求を阻んでいた市場障壁が取り除かれる
PP24: 社会規範はFuture-Fitnessの追求を更に支援する
社会規範とは、集団や社会全体の行動を規定する形式的および非形式的な規則です。これは、その集団や社会に属する人々が正常または適切であると信じているものであり、個人、業界、国、コミュニティ、国際レベルで機能します。
Future-Fitな社会では、思考と文化の多様性、個人の表現が奨励されます。社会規範がこの追求を支援するように完全に整合されているため、誰もがより広いコミュニティの一員として、個人的な充足感のある人生を自由に定義し、追求することができます。
Future-Fitな社会に移行するためには、今日定着している社会規範の多くを変えていかなければなりません。
このポジティブな取組みは、企業が行動することで以下が実現した場合に該当します。
- Future-Fitな社会にそぐわない社会規範を変えることができた
ただし、社会規範の変化は、複数の要因が絡み合っていることが多いため、単一の原因を解決すれば達成できるものではありません。
Bibliography
「エネルギーへのアクセス」が何を意味するかについては、普遍的に合意された単一の理解はありません。ここで使用されている説明は、国際エネルギー機関によるエネルギーアクセスの定義に基づいています。 [19]↩︎
「水へのアクセス」とは、住居から1キロメートル以内に清潔で信頼できる水源が存在することであると一般的に定義にされます。 [20]↩︎
「ディーセントワーク(働きがいのある人間らしい仕事)」とは、国際労働機関によって「生産的で、安全と社会保障を伴う十分な収入を生み出し、基本的権利が保護され、機会と待遇の平等、個人の成長の見込み、そして認められ、意見を聞いてもらえる機会を提供する」仕事と定義されています。 [21]↩︎
身体の完全性に対する権利は、個人が自らの身体に対して自律性を持つ権利を強調するものであり、EU基本権憲章に規定されています。 [22]↩︎
コーポレート・ガバナンスは、企業がどのように行動し、変化に対応するかを決定する重要な要素です。実際、優れたガバナンス構造は、企業が社会や環境への配慮をビジネスの中核に組み込む能力の中心となります。これは、損益分岐ゴール全体に幅広いガバナンス基準が組み込まれていることからも明らかです 。↩︎